TOP全連小の主張各種審議会への意見教育関連3法案についての意見
                            
 
平成19年2月28日

中央教育審議会教育制度分科会・
       初等中等教育分科会 殿

全国連合小学校長会長
                         寺 崎 千 秋
 

教育関連3法案についての意見

 

 中央教育審議会教育制度分科会・初等中等教育分科会が、教育職員免許法の改正、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正、学校教育法の改正に向けて精力的に調査・審議を進められていることに対し敬意を表します。今回の教育関連3法案について、全国連合小学校長会(以下、全連小)としての意見をとりまとめましたので、下記により提出いたします。

 

(1)


教育職員免許法の改正について
免許更新制の導入の趣旨
 全連小は、これまでに「社会状況や学校教育が抱える様々な課題・子供の変化等に対応するためには、その時々で必要とされる最新の知識・技能等を身に付け、教員として必要な資質・能力を定期的に刷新する必要があること」や「免許更新を契機に、自己研鑽が促進され、教員としての専門性向上への動機付けとなったり、向上意欲に富む教員が互いに学び合い、研究活動を推進すれば、教員全体の専門性向上が促進されること」から、免許更新制の導入に理解を示してきた。
 これらの観点から、法案の作成は必要であると考える。

  (2) 制度設計について
・免許状の有効期間を10年とすること、
・国公私立の別を問わずすべての教員について、大学等が解説する講習を
 受講し修了することによって免許状が更新
・勤務実績等により講習の受講を免除することが可能
・講習を修了できない教員の免許状は失効
・現在、既に免許状を有している教員にも基本的な枠組みを適用し同様の
 講習の修了を義務付け
・教員免許状を有するものの教職に就いていない者については、具体的に
 免許状が必要となった段階で講習を受講・修了
・直近2年間で30時間の講習・修了
  上記のような制度設計がされていることについて、概ね了解できるところであるが、全連小としては、@講習の質的な充実、A講習を受けるための環境整備が法制度を支える重要なポイントであると考える。
    @









A
講習の質的な充実について
 講習の質的な充実について、「大学等」としているが、実践的な教員の資質の向上が求められているとき、現場経験のない大学教員に実践的な資質の向上を目指した講習を求めることは十分ではないと考える。教職大学院大学での実践的な取り組みを担当している教員や教育委員会が設置している研修センターの職員が講習を担当することが適当である。また、日本の教育が国際社会の中でどのように位置しているのか、世界の動きを見つめどのような資質能力が求められているのかなど、時代認識が重要な研修の課題になることが予想されることから、経済と教育等の関係をグローバルに研修できる講習内容などが重要である。公教育をになう教員としての資質・能力を高める視点と同時に上記のような質的な充実を考えて法制化を進めて欲しい。
講習を受けるための条件整備
 教員免許状取得から10年ということは、大学卒業をして教職に就いた教員なら文部科学省が定めている「10年経験者研修」を控えた2年間になるということになる。その場合、研修と講習が重なり、免許更新制度の趣旨を十分生かすことがなく、現場を離れることが多くなり、多忙感だけが強調されることになると予想される。講習の実施が子供の教育に影響しないような配慮が求められるとともに現実の仕事を補充できる体制整備は大きな条件整備である。現職にある教員には人事考課制度における業績評価や教員のライフスタイルの中でのキャリヤ形成の課題等に焦点化された研修や講習が必要であると考える。従って所属する学校長の具申等を踏まえた制度設計が必要であると考える。
 また、10年ごとの更新制度であることから、教員のライフスタイルを十分考慮に入れたものであるとか職責に応じた講習、時代背景と展望をもった講習内容になるよう配慮できる制度設計が重要である。
 さらに、現職教員についての講習について研修・講習枠を設定することは重要であるが運用に当たっては、弾力的な取り組みが出来るよう考慮すべきであると考える。
  (3)

指導力不足教員の人事管理の厳格化について
  地方公務員法に定められている分限制度について、全連小は平成17年6月21日付中教審教員養成部会長宛の意見として「分限制度等との関連も十分吟味しておく必要がある」とし、分限制度がその趣旨通りに機能していない実態をどのように受け止め分析しているのか明らかにして欲しいとしてきた。
  このたび、第三者からなる評価委員会の意見を聞いて、「指導不適切な教員」の認定を行うこととしている。人事考課制度における業績評価を十分教育委員会が受け止め評価が行われるのであれば良いが、この第三者からなる評価委員会の判定のための資料作成に校長が忙殺されるのでは、趣旨が生かせなくなる可能性がある。現実に困っているのは子供であり、子供に負担を強いることのない補充制度や学校経営が行われるような緊急避難的な措置が可能になるような仕組み作りをお願いしたい。その際、分限の対象になる教員を除いて、不適切な教員であると報告されている事案については、管理職である校長の業績評価と保護者等の意見を考慮した上で、慎重に評価されることも併せて検討していただきたい。


(1)
地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正について
本法の理念について
  「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の成立に係わった木田宏氏は逐条解釈の序章において次のように述べている。「教育作用の本質は、指導であって、決して監督ではない。教育者は被教育者を指導するものであって監督するものではない。被教育者の主体性を尊重し、その主体的な活動が前提となるのでなければ、教育の作用もまた成立しないであろう。教育者が主体性をもたないでは教育は生命を失うであろう。学校を管理するに当たっても…十分留意されなければならない…。さればといって、…教育者や被教育者の勝手気儘を許すということではない。…教育行政の重点は、…監督による違反の是正よりも、いかにして充実したよりよき教育を行うかに向けられなければならない…。すなわち、指導、助言、援助等の非権力的作用こそ、教育行政のもっとも大切な仕事があるというべきである。…、教育及び教育行政にあっては、指導、助言、援助の非権力的作用を中心として、その運営を行うべきものである。」
 この点を考えたとき、教育行政を進めるに当たっては、教育委員会の充実したよりよき教育を行うための条件整備が不可決である。
 全連小としては、この観点から意見表明を行う。
  (2)

国の関与について
 国の関与の仕方について、地方分権を主張している人々と積極的な関与が必要としている人々の見解が分かれていると聞く。全連小は国の関与と地方分権が決して相対立するものではないと考えている。状況に応じた対応が適切に行えるような制度設計が重要である。

    @



















A
日常の体制強化について
 指導行政にとって、日々の平穏な時にこそ、計画的・組織的な学校に対する指導が重要である。しかるに、最近の教育委員会の指導行政の在り方は通知・調査報告を求める行政になっており、校長の経営責任を求めることに終始する状況である。このたびのいじめ問題に関わっても教育委員会の適切な学校の指導や支援活動は適切性を担保できるものではなかったと考える。
 指導行政にとって重要なのは専門性に根ざした指導・助言・援助等であり、指導主事の働きの重要性が求められる。しかし、その指導主事が役所の机でパソコンを使っての職務遂行を強いられ、本来業務を果たしていないのが現状である。地方教育行政の強化が求められる。このたびの、すべての教育委員会に指導主事を配置するとの方針は歓迎すべきと考えている。指導主事が学校に行き、実情を見聞し、実態に応じた指導行政の充実を行うべきである。
 また、選考を伴う指導主事制度を採っている自治体では、指導主事の希望者がへっていると聞く。例えば、東京都ではA選考として5年のジョブローテーションを制度化して必要な人材を集めようとしているが、希望教員のモチベーションを低下させている。教員の夢や希望を行政の制度が阻んでいる。塩野七生氏の言葉に「私が歴史から学んだことの一つは才能ある人間が少なくなったから国が滅ぶのではなく才能ある人間を活用するメカニズムが機能しなくなったから滅ぶということです。能力ある人間はいつの時代にもいるんです。」がある。このことを心に止めて、制度設計をしてくれることを望んでいる。
危機対応における体制の強化
 問題が顕在化したとき、その対応は緊急を要する。危機対応の体制づくりが出来ることが重要である。現行地教行法の第48条には「文部科学大臣又は都道府県教育委員会の指導、助言、援助」が規定されているが、児童生徒の生命に係わる事案や著しい問題について早急に是正が必要とされる事案等については、指導、助言、援助ではなく、国が明確な指示を与えられるという規定が是非必要であると考える。早期に危機を回避し、常態を回復することが国民の教育に対する信頼を得られるものであると考える。 私学を統括する知事部局に対してもそれが可能であることを規定している。今回、改訂教育基本法第16条に「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」と規定された。この規定を各段階で、教育の論理で執行できるよう体制強化が図られ権限をよりしっかりしたものにすることが重要であると考える。 

  

(1)
学校教育法の改正について
学校教育法の構成について
 改正教育基本法の教育の目的(第1条)、教育の目標(第2条)、義務教育(第5条)の規定を受け、学校教育法の構成を改めることは必要である。現行学校教育法では第二章小学校、第三章中学校、第四章高等学校…となっているところを、義務教育の目標として規定を設け、その規定の実現に向けて小学校、中学校の在り方を大綱的に示すことや就学前教育、義務教育終了後の教育、中等教育・高等教育の目標・目的を示すことは重要であり、国民に教育体系がわかりやすく示せるものと考える。
  (2) 小学校の目標
 小学校の目標については、「人格形成上の基本的事項や、国家・社会の形成者としての基本的な資質の育成」「基礎的・基本的な知識・技能の習得とその知識・技能の活用を通して実生活に役立つ諸能力を育成する」規定や「その内容・方法が学習指導要領に示されること」を規定することが重要であると考える。
  (3) 義務教育の根幹(機会均等、水準維持、無償制)について
  現在、地方分権の名の下に義務教育の根幹が揺らいでいると考える。それは、教育特区の制度である。義務教育は日本の法律が及ぶ範囲にあっては機会均等、水準維持、無償制が維持されねばならないにもかかわらず、特色ある教育の実現の名の下に、国が示した学習指導要領の規定によらないで実施する学校教育が横行している。子供の教育については地域で生きる状況を鑑み、素材の教材化、学習範囲など地域の特色を生かして教育課程を編成することは重要なことであるが、目標や内容が学習指導要領の規定を離れてよいことではない。基礎的・基本的内容の学習事項は、学習指導要領によることが義務教育の根幹を維持することであろう。
 加えて、現在自治体の財政力等によって教育を受ける権利に格差が生じている。英語活動などの分野など差が顕著である。義務教育の根幹(機会均等、水準維持、無償制)に立って、条件整備の在り方、研究開発学校等の在り方を検討すべきである。
 また、義務教育答申が明らかにした義務教育の構造改革について、質を保証する構造に改革すべきとの指摘がある。@目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行った上で、A市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、B教育の結果の検証を国の責任で行うと提言されている。その一環としてアウトカムの検証のため導入されようとしているのが学力調査である。その実施に当たり、自治体や私立学校の一部が実施しないとの報道がある。これらに対し、義務教育のシステム化に係わる規定が必要である。検討願いたい。
  (4) 学校評価等に関する事項
  学校評価は、国民の学校教育に対する信頼確保にとって重要なことである。内部評価、外部評価は必要であるが、第三者評価の在り方は研究段階にあり時期尚早の感を否めない。導入の仕方について条件整備をしていただきたい。
  また、教育再生会議内において児童生徒の教員評価について論議があったと聞く。改正教育基本法の第六条2項に「前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。」が規定されている。この趣旨を考えるなら、過度な児童生徒の教員評価は考えなければならないと考える。
  (5) 副校長その他の新しい職の設置に関する事項
  多様化している学校の状況を考えたとき、教職員の増員が求められる。学校としては、児童生徒の指導に関し自由に学校の裁量で職務遂行できる教員が必要である。このことに加え、学校経営をより効率的に進められるスタッフの設置は望ましいことである。東京都の場合、教育課程の適正な実施という観点から導入された、副校長、主幹は有効に機能している。また、指導教諭という指導層の処遇も併せて考えていく必要があると考える。

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