TOPあいさつ
 
【潮流】全国連合小学校長会長 寺崎千秋氏に聞く
「日本教育新聞社 週間教育資料 No.896 より」
 

【新人の悩み聞く場を】
教師の力を高めるために、具体的にはどんな方策があるでしょうか。
 今はもう、精神論で「頑張れ、しっかりやれ」という時代ではなくて、校長が足元の自分の学校の教師の職務や教育活動をしっかり見て、どうあるべきか、どうやるべきかを具体的に指導していく時代ではないかと思います。
 よく言われることですが、まずは授業を観察して、しっかりとした助言をしていくこと。それから週の指導計画、いわゆる週案をきちんと見て助言を加えたり、別の視点を示唆したり指示していくべきだろうと思います。
 ある本で、例えば管理職手当を2割もらっていたら、一日の仕事の2割は部下の指導に当てるべきだとありました。私も、今は校内外の仕事もあってなかなか時間も取れませんが、そのことを心掛けてやっているつもりです。誰かに任せるのではなく、校長自身が率先して、先生たちの力を高めることをするべきだと思います。

折りに触れて、というだけではなく、定期的に指導の時間をつくっているのですか。
 本校は、去年、今年と新採用の先生が2人ずつ来ました。前任校では、3人の新採を抱えたことが2回ありました。新採の先生たちに対して1番力を入れたのは、週1回のミーティングです。教務主任も入れたメンバーで、新人たちの話、細やかな思いや悩みを聞き、それに自分たちの体験を話したり助言をしながら、一つ一つ解決していきました。
 もちろん、初任者研修には指導教員がついています。でも考えてみれば初任者は、いろんな人から指導されたりアドバイスをもらう機会はあるのですが、自分が何を悩んでいるのか、学校でどういうことが問題なのか、何に困っているのかを口に出しにくい。そういうことを言う前にアドバイスを言われてしまいがちなのです。しかしまず、聞いてあげることが大切。遠回りのようですが、2,3年たつと結果としてすごく育ってきたな、と感じています。

1年間、ずっと続けるのですか。
 週1回ペースで、1年間続けます。時間帯は大体夕方ですね。子どもが帰って先生たちも一段落した5時くらいから始めると、一日をゆっくりと振り返れます。勤務時間外ですが、皆むしろその方がありがたいということでした。ただ、あまり長いといけませんから、1時間くらいにしています。

【日々の課題を文章化する努力】
校長としての力を高めるために、先生ご自身が取り組んできたことはありますか。
 そうですね・・・。私は理論面では、企業の経営論などの本を意識的に読み、生かせるものは生かそうとしています。例えば、10年以上前でしたか、『リエンジニアリング革命』(日本経済新聞社)で経営の在り方を根本から考え直したり、最近だとドラッカーの数々の本を読んで、いわゆるイノベーションとは何か、それは学校に置き換えられるのか、などと考えています。
 簡単に言えば、学校は先生たちの論理で事を運ぶのではなくて、子どものためになるか、あるいは保護者が納得するかという論理で発想する。企業で言えば、社内論理ではなくて顧客が満足するかどうかという論理ですね。当たり前のことのようですが、アメリカが日本に追い越されたのは結局、アメリカの企業が巨大化して企業内の論理でことを運ぶようになったからだと、『リエンジニアリング革命』の中で指摘されていました。そこから学んだことを、学校という教育の場の経営にどう生かすか、それは自分なりにやってきたと思います。
 それから、日々の教育活動や経営活動の中で課題を見つけてテーマ化し、その解決策を自分なりにノートに日常的に書いてみるということは続けてきました。

それも、何かヒントはあったのですか。
 これは『問題解決の思考技術』という本の中に書いてあったやり方を取り入れました。もっと遡ると、毎日新聞の記者が『中曽根とは何だったのか』と言う本を随分前に書いたんです。なぜ弱小派閥の中曽根さんが4年も5年も総理大臣の座に就けたのか。結論を言うと、中曽根元首相は国会議員になった時から「おれは将来、総理大臣になる」と決め、そのためにやるべきことを大学ノート30冊ぐらいに書きつづって、持っていたそうです。日和見と言われていましたが、実は綿密に考え実行してきた積み上げの中に、臨教審もあり、臨調もあったわけです。
 その2冊の本からヒントを得て、私もメモでいいから課題を文章化して残していくことにしました。そして、それを短期、中期、長期の課題に整理する。校長になった時に始めましたが、すごく長かったですね。

どのくらい課題が出てきたのでしょう。
 最初に校長になったときは、1ヶ月で40以上の課題を見つけましたし、年間通して170〜180になりました。一つ一つは、他愛ないこともあります。朝会を10
分以内で終わらせるためにどうしたらいいか、とかね。学校全体でいえば、子どもたちが廊下を走っているとか、あいさつをしないという課題に対しては、子どもが静かに歩くためにはこうしようとか、校長は全校一斉に必ず声掛けをしようとか、そんなことです。でも、そういう日常的なこと一つ一つをきちんと実践し解決していくと、それが学校全体の経営改革になってくるだろうし、校長自身の経営の目が育っていくし、抽象論ではなくて具体論で語れるのではないかなという気がします。

「日本教育新聞社 週間教育資料 No.896 より」