TOPあいさつ
 
【潮流】全国連合小学校長会長 寺崎千秋氏に聞く
「日本教育新聞社 週間教育資料 No.897 より」
 
 

【子どもと一緒に体験を】
逆に、「子どもたちにとって非常に良かった」と感じた改革はありますか。
 現行の学習指導要領は、内容を削減したことで評判が悪いのですが、私は高く評価しています。特に、総合的な学習の時間が入ったことが良かったですね。今の学習指導要領は、読み・書き・算の基礎・基本をじっくりと身に付けさせるとともに、総合的な学習の時間を創設して、各教科で身に付けた知識や技能を子どもが主体的に使うという構造になっています。まさに生きる力をはぐくむ構造ですね。それは非常によくできていると思います。
 総合的な学習の時間は、確かに学校への丸投げとも言えますが、まさに教師の指導力・教育力が最も発揮される時間です。それだけに、しっかり定着するにはまだ時間はかかるでしょうが、それがこなせる教師になることが、教師の力全体を高めることでもあると思います。

一方で、何を学んでいるか分からないという批判もあるようです。
 1番大切なのは、学習指導要領に示された狙いの部分を各学校で具体化し、自分の学校の総合の時間の目標と内容をしっかり設定することです。各教科は指導要領にそれが書いてありますが、「総合」は自分の学校でそこから作らなくてはいけないわけですから、まずそれをしっかりやってもらいたいですね。
 その上で、「各教科で身に付けた知識や技能を相互に関連付けて、学習や生活において生かし、それらが総合的に働くようにする」。このねらいは、私が非常に愛しているところです。「総合」は教科で学んだことを使う時間であって、先生がいちいち指示し説明してやらせる時間ではない。このことを、もっともっと徹底していくことが大切だと思います。各学校が自分たちで目標をつくり、内容も設定し、活動は子どもに任せるわけですから、教科指導がしっかりできる教師でないと、手に負えません。教科指導がいいかげんな人は、やはり「総合」もあいまいです。

「総合」の狙いの達成は、教師の力量にかかっているということでしょうか。
 「総合」は、教科指導のように長年の積み上げがあるわけでもないし、先輩から教わったり、他の先生の授業を見るのも難しい。やはり、自分で単元開発をして、実際にそれを子どもと一緒にやってみる、一緒に問題解決をするという体験をしながら先生自身が学んでいかないと、この時間は体得できないと思います。それが一番できたのは移行期間でしたから、移行期間にじっくり取り組んだ学校は、今もいい実践をやっているし、それをやった先生は、「総合」がしっかりできるようになっていると思います。

【6年間で一人前に】
先生は、総合的な学習などについて、ご執筆の機会も多いようですね。
 実は、私が行政に入る前にいた東京都の小学校が、素晴らしいカリキュラムを持った実験校でした。教育というのは、1人ひとりがばらばらにやるのではなくて、意図的、計画的、組織的にやるもの。それによってその学校でも、子どもがどんどん育っているのを目の当たりにしました。教育課程をきちんと作って、それに基づいて教育するということがいかに大事かを、実感したのです。行政でも、平成元年の学習指導要領改訂に、まさにカリキュラムの担当として対応しました。ですから、教育課程を編成し、それに基づいて教育をやるということに、ずっとかかわってきたわけです。そういうことを、共著の形で書く機会はありますね。

週末はもっぱらご執筆ですか?ご趣味などは。
 それを聞かれると1番困るんです(笑)。無趣味と言うのも何ですし、あえて言えばスポーツをして、その後に仲間とお酒を飲むのが趣味みたいなものですね。大学では卓球部でした。私はもともと高校の日本史の教師を目指していて、教員になったら生徒と一緒に何かスポーツをやりたいし、部活の指導にも役立つと思って、卓球部に入ったのです。

高校志望だったのですか。
 ええ。学生時代は、小学校の教員になる気持ちはありませんでした。採用試験も高校で受けて、合格もしたのです。ところが、ちょうど大学紛争のあおりで都立高校は採用をしなかったんですね。私も名簿に載っていたのに、結局一年間採用がなくて、とりあえず小学校に行き始めたのです。小学校は、子どもと一緒になってスポーツをしたり、勉強も必死で教えたり、まさに取っ組み合い。だんだん面白くなってきて、いつの間にか高校でやるということを忘れてしまったのです(笑)。

いつごろから教師を目指していたのですか。
 高校入学のころは、もう教員になろうと思っていました。私は、子どものころから学校好き人間なんですよ。休みの日も、当てもなく自転車で学校に行ってましたよ。友達に会うためとかでなくね。
 ちょうど私たちのころの学校は、戦後のまさに自由な雰囲気が残っていた気がします。もちろん、中学にはいろいろ規制もありましたが、私の時代は中学も8クラス、高校は10クラスくらいありましたから、ある意味では目が届かなかったんですね。だから、本当に伸び伸びやってきたという記憶があります。

これからの学校教育で、課題に感じていることはりますか。
 東京都の場合、まさに団塊の世代がこの先4、5年で大量退職します。つまり新規採用が大量に入ってくるわけで、東京では今年から、新規採用教員は一つの学校に6年間いられるようになりました。その中で私がこだわっているのは、前半の3年間はベテランの力のある先生についてできるだけ学んでもらって、次の3年で独立してやってもらうということです。さらに言えば、最初の5、6年で学級経営ができるようになってもらい、30代半ばには学校経営の中核になってもらう。それぐらいやらないと間に合わないし、そうしなくては、教育そのものが危ういのです。
 若い先生も大変でしょうが、若さがあれば子どもの方からぶつかってきますからね。それが若さの特権です。とにかく子どもと一緒に体当たりでやって、そこから学び取ってもらいたいですね。

「日本教育新聞社 週間教育資料No,897より」

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